日本の口蹄疫消毒薬殺処分
麻酔薬による安楽死を求める理由
私たちが麻酔薬大量投与による安楽死を求める最も大きな理由は、他の薬剤を使用した場合、動物への苦痛の可能性の危険が非常に高くなることにあります。理論的には最後の致死薬剤がどのようなものであれ、前の段階で意識喪失が確保されていれば安楽死は実現します。しかしこの方法にはいくつかの問題点が存在します。
第一の問題は、深い麻酔状態を確保するためには静脈への完全な麻酔薬投与が必ず必要になりますが、場合によっては静脈からはずれ皮下あるいは筋肉に投与されるなど失敗する可能性があることです。その場合意識喪失が完全ではないにも拘らず「麻酔薬を投与した」として苦痛の伴う致死処置に移行する可能性が生じます。これは騒然とした現場では容易に起こりうることだと推測できます。現在「鎮静剤を投与した」ということで消毒薬致死方が実施されているのと同じことが再び生じる可能性が高くなるのです。しかし致死剤を麻酔薬に限定すればたとえ静脈等投与が失敗したとしても動物が死なないということ以外の問題は生じません。その場合はもう一度麻酔薬投与を行えばいいだけです。ですから致死剤は麻酔薬に限る必要があります。
現在行政が麻酔薬投与に移行できない大きな理由はむしろここにあると見ることもできます。すなわち、麻酔薬投与に限れば静脈投与の失敗による殺処分の遅れが生じることです。そのため静脈投与が失敗した場合でも確実に致死に至る消毒薬が用いられていると言うこともできます。つまり意識喪失殺処分規定をないがしろにすることで成り立っているのが現在の消毒薬殺処分政策であると言うこともできます。
意識喪失後の麻酔薬以外の投与を認める際の第二の問題点は、完全な意識喪失をどのように確認するか?その確実な方法がないことです。脳波を一頭一頭確認すればそれは可能ですが騒然とした現場でそれは不可能であると言えます。「見た目で判断することもできる」と言うこともできますが、見た目で「どのような状況でも正しく判断できる人」はほとんどいないという問題があります。人間はその場の雰囲気に流されて残酷な行いを簡単に容認するものだからです。「やむをえない状況」であればまず間違いなく殺処分の使命感が優先するでしょう。ですからこの場合は「どのような場合でも残酷な殺処分を絶対に許さない強い意思を持つ人」が現場現場に必ず常駐しなければならないことになります。ここまでの制度を整える労力を考えるとむしろ麻酔薬に限定する方がはるかに簡単であるように思います。
しかも鎮静剤→麻酔剤→消毒薬致死剤の3工程よりも鎮静剤→麻酔剤の方が1工程少なく済むはずです。問題は鎮静剤後どれほどの確立で静脈注射が失敗しているかによって、行政や一般の人々の印象は異なりますが、たとえ1%の失敗確率であっても殺処分される動物にとっては残酷な殺処分方法となってしまうため麻酔薬による安楽死に限る必要があるでしょう。