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外来種根絶政策の問題点
導入
2008年10月25日
夕陽を浴びて美しく光り輝くセイタカアワダチソウ。
今日、日本の人々ー特に教養ある人々ーは、このアメリカの植物に対して、嫌悪を露にして語ります。
「アメリカの植物は日本から排除すべきだ ! 」
このような訴えを、いたるところで見聞きします。
この考え方は自然保護の権威IUCN(国際自然保連合)や国連機関UNEP(国連環境計画)、世界最大の自然保護団体WWFなどによって推進され、国際条約である生物多様性条約として各国に批准されています。
1993年発行の生物の多様性に関する条約第8条(h)Convention on Biological Diversity Article 8(h)には
「生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を防止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること」
Prevent the introduction of, control or eradicate those alien species which
threaten ecosystems, habitats or species
と、はっきりと記されています。
「外来種」は「 人為的に本来の生息地以外に定着した種」とされています。
「外来種」が従来日本で用いられてきた「帰化動植物」と異なるのは、この存在を生物多様性を脅かす脅威と捉えている点です。ですから今日の生物学は自然科学的・倫理的定義に忠実な「拉致された種」ではなく、嫌悪を込めて「侵略的外来種」の用語を用いています。
外来種問題は、温暖化ガスの排出問題同様、近年の活発な人間活動によってもたらされた環境破壊の一つと捉えられています。一度排出された温暖化ガスは大気中から選り分けて除去できないが、外来種であれば目に見えるので除去できる、というのが自然保護運動の考え方です。もっとも導入元を規制しなければ限りがないので法律によって規制しようとしています。言葉が理解できる人間には法規制で、言葉が理解できない動植物には除去と殺戮を持って対処するのが自然保護運動の解決方法です。
日本でも日本自然保護協会やWWF Japanなどの自然保護団体、アライブ(ALIVE)などの動物保護団体を中心に外来種根絶政策の合法化が計られています。アライブはまた動物保護法改正運動時に外来種を念頭に、殺処分センターでの引き取り殺処分動物種の拡大を政府自民党に求めています。和歌山県の外来種タイワンザルの問題では、根絶政策に賛同した上で安楽死を和歌山県に求めています。おびただしい数の動植物がこれらの政策によって殺処分または排除されています。
しかしこれらの殺処分政策と考え方は、果たして本当に正しいものなのでしょうか。この考え方の行き着く先は、自然界に存在する特定の動植物の地上からの抹殺なのですから、慎重に考察する必要があります。しかも生物学者や自然保護団体がひとたび認定すればどのような存在であれ「外来種」として皆殺しに至る可能性が存在します。
私たちがまず問題にするのは、罪のない動植物を取り去ったり殺したりしてもよいのかという点です。人間には自分の命を守るためにやむを得ず他者を殺害する本能に従う場合があります。しかしこの、生態系を守るために外来種を殺す行為は果たしてそのようなやむを得ない場合に該当するのかという疑問が生じます。また、そもそも生態系や私たち人類が、外来種から被害を被っていると言えるのかどうか疑問が生じます。私たちは、自然保護運動・動物保護運動が殺戮と除去を目指した基本的な認識ー外来種が生物多様性を毀損しているーが正しい認識なのかどうかについてもう一度よく考えてみる必要があります。この認識は自然科学的認識に基づく普遍的な真理なのかどうか。他者を殺戮するこの行為は倫理的に正しい行為なのかどうか。自然のあり方を説明すべき生物学が、反対に自然さえも規定してしまうことが正当なことなのかどうか、よく考えてみる必要があります。私たちが当然のように受け入れている概念「生物多様性の保全」や「生態系の保全」、「種の保存」、そして「存在物の排斥思想」について私たちはもう一度はじめから考えてみなければなりません。
今井 真
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